祈ってばかりの日々。ただ祈る日々。祈ることしかできぬ日々。僕は何に祈っているのだろう。妻にだろうか。超越存在にだろうか。それとももっと抽象的な,確率や,確立過程や,乱数にだろうか。あるいはもっともっと抽象的な,不確かさ,みたいなものに祈っているのだろうか。よく分からない。

よく分からないなりに,でも,たぶん,僕の祈りの宛先は決まっている。そんな気がする。宛先といっても,それはまだ存在しないし,それはまだ名前も持たない。まだすごく淡くて,薄くて,ふんわりしたものだ。ただ,まるで未来そのものみたいなそれにしか,僕の祈りは届かない。それにしか意味のない祈りを,僕はずっと繰り返している。今だってそうだ。これからも僕は祈るだろう。この祈りは,その存在がもっと色濃くなって,名前がついて,それにまつわるあらゆるものごとがはっきりと,具体的になってからも,きっとずっと続くだろう。より強く,鋭さを増して続いていくだろう。

そしてやはり,直接的な意味がなくても,間接的な投影に過ぎなくても,やはり僕は妻に祈る。妻に祈り妻と祈る。徳高く美しい彼女の日々が報われることを祈る。彼女の孤独が癒やされることを祈る。彼女の嘆きが,悔しさが,戦いが,ことなく静かに終わることを祈る。そしてなによりも,妻の未来が明らかであることを,穏やかで暖かくあることを,僕は祈る。