寝過ぎた。5時だった。午後5時だ。過眠による倦怠感を拭うのに1時間かかった。ひとしきり倦怠感が拭われると,今度は焦燥感が襲ってきた。日曜日が終わってゆく。曇天を差し引いてもすでに外は昼の明るさではない。冬ならとっくに夜だろう。夏だがそろそろ夜になる。無為に迎える夏の夜ほど間延びして惨めなものはない。何かしなくては。とはいえ時間も時間だし,明日も仕事がある。思いつくことといえば食事に色気を出すことくらいだった。

妻が刺身を食べたいと言っていたのを思い出して,2人で恵比寿の寿司屋に行った。コース仕立ての外食はいい。主体的には食べているだけなのに何かを為している気分になれる。味さえ良ければ最高の娯楽だ。今日の店は味がよかった。したがって今日の食事も最高の娯楽だった。昨日あれだけの肉をぺろりと完食していた妻だったが,今日はさっそく限界までシャリの量を減らしていた。とはいえ追加ネタまでしっかり食べ切っていたので,大将の調整がよほどいい塩梅だったのだろう。

雨も上がっていたので,帰り道は歩くことにした。夕方まで眠っていたせいで不足した運動量を,散歩がてら補いたかったというのもある。特に寄り道もしなかったので,1時間足らずで家に着いた。着く間際にあたった夜の霧雨が身体を心地よく冷やした。

それから2人で『モテキ』という映画を観た。くだらない人間たちが寂しさや弱さを持ち寄って,だらしなく生きている様子を写した映画だった。僕はこういう映画を観ると腹が立ってしまう。この映画では各人が各人に対してかなり不躾というか,無礼な言動を繰り返すのだけど,誰も誰かに謝らない。感謝もしない。そのくせ揃いも揃って八つ当たりするし,公共空間で大声を出すし,貞操観念が終わっている。まともな人間が1人として出てこない映画で,僕はいったい誰の気持ちになってこの作品を観ればよかったのか,結局今も分からないままだ。